《ぬ》つて、橋《はし》の上《うへ》を提灯《ちやうちん》が二《ふた》つ三《み》つ、どや/\と人影《ひとかげ》が、道《みち》を右左《みぎひだり》へ分《わか》れて吹立《ふきた》てる風《かぜ》に飛《と》んで行《ゆ》く。
 真先《まつさき》に案内者《あんないしや》権七《ごんしち》の帰《かへ》つて来《き》たのが、ものゝ半時《はんとき》と間《あひだ》は無《な》かつた。けれども、足《あし》を爪立《つまだ》つて待《ま》つて居《ゐ》る身《み》には、夜中《よなか》までかゝつたやうに思《おも》ふ。
 婆《ばあ》さんに聞《き》けば、夫婦《ふうふ》づれの衆《しゆ》は、内《うち》で采粒《さいつぶ》を買《か》はつしやると、両方《りやうはう》で顔《かほ》を見合《みあ》ひながら後退《あとしざ》りをして、向《むか》ふ崖《がけ》の暗《くら》い方《はう》へ入《はい》つたまで。それからは覚《おぼ》えて居《を》らぬ。目《め》は踈《うと》し、暮方《くれがた》ではあり、やがて暗《くら》くなつて了《しま》つた、と権七《ごんしち》が言《い》ふ。
 のみ、手懸《てがゝ》りは何《なん》にも無《な》い。
『矢張《やつぱり》何《なに》か私《わたし
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