して、女中《ぢよちゆう》が廊下《らうか》の高《たか》い処《ところ》へ顔《かほ》を出《だ》して、
『まだ、お帰《かへ》り遊《あそ》ばしません。』
『下《お》りて来《き》て、ちやんと申《まを》さぬかい、何《なん》ぢや、不作法《ぶさはふ》な。』と亭主《ていしゆ》が炉端《ろばた》から上睨《うはにら》みを行《や》る。
雪枝《ゆきえ》は一文字《いちもんじ》に其《そ》の前《まへ》を突切《つゝき》つて、階子段《はしごだん》を駆上《かけあが》り状《ざま》に、女中《ぢよちゆう》と摺違《すれちが》つて、
『そんな筈《はづ》は無《な》い。そんな、お前《まへ》、』と躾《たしな》めるやうに言《い》ひ/\飛上《とびあが》つたのであつた。
『それともお湯《ゆ》へお出《い》でなさいましてですか、お座敷《ざしき》には居《ゐ》らつしやいませんですよ。』と小走《こばし》りに跟《つ》いて来《く》る。
固《もと》より女中《ぢよちゆう》が串戯《ぢやうだん》を言《い》ふわけは無《な》い。居《ゐ》ないものは居《ゐ》ないので、座敷《ざしき》を見《み》ると、あとを片附《かたづ》けて掃出《はきだ》したらしく、きちんと成《な》つて、点《つ
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