》けたての真《しん》を細《ほそ》めた台洋燈《だいらんぷ》が、影《かげ》を大《おほ》きく床《とこ》の間《ま》へ這《は》はして、片隅《かたすみ》へ二間《ふたま》に畳《たゝ》んだ六枚折《ろくまいをり》の屏風《びやうぶ》が如何《いか》にも寂《さび》しい。
 而《そ》して誰《たれ》も居《ゐ》ない八畳《はちでふ》の真中《まんなか》に、其《そ》の双六巌《すごろくいは》に似《に》たと言《い》ふ紫縞《むらさきじま》の座蒲団《ざぶとん》が二枚《にまい》、対坐《さしむかひ》に据《す》えて有《あ》つたのを一目《ひとめ》見《み》ると、天窓《あたま》から水《みづ》を浴《あ》びたやうに慄然《ぞつ》とした。此処《こゝ》へも颯《さつ》と一嵐《ひとあらし》、廊下《らうか》から追《お》つて来《き》て座敷《ざしき》を吹抜《ふきぬ》けて雨戸《あまど》をカタリと鳴《な》らす。
 恁《か》うして、お浦《うら》に別《わ》かれるのが極《きま》つた運命《うんめい》では無《な》からうかと思《おも》つた……
「浴室《ゆどの》だ、浴室《ゆどの》だ。見《み》ておいで。と女中《ぢよちゆう》を追遣《おひや》つて、倒《たふ》れ込《こ》むやうに部屋《へ
前へ 次へ
全284ページ中89ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング