ど》りを為《し》て、橋《はし》の取着《とつゝき》の宿《やど》へ帰《かへ》つた、――此《これ》は前刻《さつき》渡《わた》つて、向《むか》ふ越《ごし》で、山路《やまみち》の方《はう》へ、あの婆《ばあ》さんの店《みせ》へ出《で》た橋《はし》だつた。
『お帰《かへ》りなさいまし。』
と向《むか》ふ廊下《らうか》から早足《はやあし》で、すた/\来懸《きかゝ》つた女中《ぢよちゆう》が一人《ひとり》、雪枝《ゆきえ》を見《み》て立停《たちと》まつた。
『御緩《ごゆつく》り様《さま》で、』と左側《ひだりがは》の、畳《たゝみ》五十畳《ごじふでふ》計《ばか》りの、だゞつ広《ぴろ》い帳場《ちやうば》、……真中《まんなか》に大《おほき》な炉《ろ》を切《き》つた、其《そ》の自在留《じざいとめ》の、ト尾鰭《をひれ》を刎《は》ねた鯉《こひ》の蔭《かげ》から、でつぷり肥《ふと》つた赤《あか》ら顔《がほ》を出《だ》して亭主《ていしゆ》が言《い》ふ。
『同伴《つれ》は帰《かへ》つたらうね。』と聞《き》いた時《とき》、雪枝《ゆきえ》は其《そ》の間違《まちがひ》の無《な》い事《こと》を信《しん》じながら、何《なん》だか胸《むね
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