の崖《がけ》を樹《き》の茂《しげ》つた細《ほそ》い路《みち》へ、……背負《せを》つて居《ゐ》た、丈《たけ》の伸《の》びた雑木《ざうき》の薪《まき》を、身躰《からだ》ごと横《よこ》にして、ざつと入《はい》つて行《ゆ》く。
しばらく、ざわ/\と鳴《な》つて居《ゐ》た。
急《きふ》に何《なん》だか寂《さび》しく成《な》つて、酔《ゑひ》ざめのやうな身震《みぶる》ひが出《で》た。急《いそ》いで、燈火《ともしび》を当《あて》に駆下《かけお》りる、と思《おも》ひがけず、往《ゆき》には覚《おぼ》えもない石壇《いしだん》があつて、其《それ》を下切《おりき》つた処《ところ》が宿《やど》の横《よこ》を流《なが》れる矢《や》を射《ゐ》るやうな谿河《たにがは》だつた。――驚《おどろ》いたのは、山《やま》が二《ふた》わかれの真中《まんなか》を、温泉宿《をんせんやど》を貫《つらぬ》いて流《なが》れる、其《そ》の川《かは》を、何時《いつ》の間《ま》に越《こ》へて、此《こ》の城趾《しろあと》の方《はう》へ来《き》たか少《すこ》しも覚《おぼ》えが無《な》い。
岸《きし》づたひに、岩《いは》を踏《ふ》んで後戻《あとも
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