小《ちひ》さく成《な》つた。――飛騨《ひだ》の山《やま》の此《こ》のあたりは、土地《とち》が呼吸《こきう》をするのかも分《わか》らぬ。
 雪枝《ゆきえ》は伸上《のびあが》つた時《とき》、膝《ひざ》を草《くさ》に支《つ》いて居《ゐ》た。
「其《そ》の時《とき》来懸《きかゝ》つたのは、何《ど》うも、此《こ》の原《はら》の、向《むか》ふの取着《とつゝき》であつたらしい。
『お城趾《しろあと》の方《はう》さ行《い》つては成《な》んねえだ。』と云《い》つて其《そ》の男《をとこ》が引取《ひきと》めました……私《わたくし》は家内《かない》の姿《すがた》を高《たか》い山《やま》の端《は》で見失《みうしな》つたが、何《ど》うも、向《むか》ふが空《そら》へ上《あが》つたのではなく、自分《じぶん》が谷底《たにそこ》へ落《お》ちてたらしい。其処《そこ》で疵《きづ》だらけに成《な》つて漸々《やう/\》出《で》て来《き》た処《ところ》が、此《こ》の取着《とつゝ》きで、以前《いぜん》夫婦《ふうふ》づれで散歩《さんぽ》に出《で》た場所《ばしよ》とは、全然《まるで》方角《はうがく》が違《ちが》う、――御存《ごぞん》じの
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