か》る。――やがて、此《これ》が、野《の》の一面《いちめん》の草《くさ》を伝《つたは》つて、次第《しだい》にひら/\と、麓《ふもと》に下《お》りて遊行《ゆぎやう》しやう。……さて、日《ひ》も当《あた》れば、北国《ほくこく》の山中《さんちゆう》ながら、人里《ひとざと》の背戸《せど》垣根《かきね》に、神《かみ》が咲《さ》かせた桃《もゝ》桜《さくら》が、何処《どこ》とも無《な》く空《そら》に映《うつ》らう。まだ、朝早《あさまだ》き、天守《てんしゆ》の上《うへ》から野《の》をかけて箕《み》の形《かたち》に雲《くも》が簇《むらが》つて、処々《ところ/″\》物凄《ものすさま》じく渦《うづ》を巻《まい》て、霰《あられ》も迸《ほとばし》つて出《で》さうなのは、風《かぜ》が動《うご》かすのではない。四辺《あたり》は寂寞《ひつそり》して居《ゐ》る……峰《みね》に当《あた》り、頂《いたゞき》に障《さは》つて、山々《やま/\》のために揺《ゆ》れるのである。
 雲《くも》の動《うご》く時《とき》、二人《ふたり》の形《かたち》は大《おほ》きく成《な》つた。静《じつ》とする時《とき》、渠等《かれら》の姿《すがた》は
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