其処《そこ》を通《とほ》つたら、ほつほつと描《ゑが》かれやう、鳥《とり》も飛《と》ばゞ見《み》えやう、――けれども天守《てんしゆ》の屋根《やね》は森《もり》が包《つゝ》んで、霞《かすみ》がくれに尚《なほ》暗《くら》い。其《そ》の上《うへ》、野《の》の果《はて》を引上《ひきあげ》る雲《くも》も此方《こなた》をさして畳《たゝ》まつて来《く》るやうで、老爺《ぢゞい》と差向《さしむか》つた中空《なかぞら》は厚《あつ》さが増《ま》す。其《そ》の濃《こ》く暗《くら》い奥《おく》から、黄金色《こがねいろ》に赤味《あかみ》の注《さ》した雲《くも》が、むく/\と湧出《わきだ》す、太陽《たいやう》は其処《そこ》まで上《のぼ》つた――汀《みぎは》の蘆《あし》の枯《か》れた葉《は》にも、さすがに薄《うす》い光《ひかり》がかゝつて、角《つの》ぐむ芽生《めばえ》もやゝ煙《けぶ》りかけた。此《こ》の煙《けむり》は月夜《つきよ》のやうに水《みづ》の上《うへ》にも這《は》ひ懸《かゝ》る。船《ふね》の焼《や》けた余波《なごり》は分解《わか》ず……唯《たゞ》陽炎《かげらふ》が頻《しきり》に形《かたち》づくりするのが分解《わ
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