……、何処《どこ》へござらつしやる、旦那《だんな》。』
とすた/\小走《こばし》りに駆《か》けて来《き》て、背後《うしろ》から袂《たもと》を引留《ひきと》めた、山稼《やまかせ》ぎの若《わか》い男《をとこ》があつた。
『お城趾《しろあと》へ行《ゆ》かしつては成《な》りましねえだよ。日《ひ》も暮《く》れたに、当事《あてこと》もねえ。』と少《すこ》し叱《しか》つて言《い》ふ。
煙《けむり》が立《た》つて、づん/\とあがる坂《さか》一筋《ひとすぢ》、やがて、其《そ》の煙《けむり》の裙《すそ》が下伏《したぶ》せに、ぱつと拡《ひろ》がつたやうな野末《のずゑ》の処《ところ》へ掛《かゝ》つて居《ゐ》ました。」
雪枝《ゆきえ》は胸《むね》を伸上《のしあ》げて、岬《みさき》が突出《つきで》た湾《わん》の外《そと》を臨《のぞ》むが如《ごと》く背後状《うしろざま》に広野《ひろの》を視《なが》めた。……東雲《しのゝめ》の雲《くも》は其《そ》の野末《のずゑ》を離《はな》れて、細《ほそ》く長《なが》く縦《たて》に蒼空《あをぞら》の糸《いと》を引《ひ》いて、上《のぼ》つて行《ゆ》く、……人《ひと》も馬《うま》も、
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