》えなければ、其《それ》らしい店《みせ》もない。
いや、これは可怪《おかし》いぞ。一人《ひとり》ばかり居《ゐ》ないのなら、女《をんな》が何《ど》うかしたのだらうが、店《みせ》も婆《ばあ》さんもなくなつた、とすると……前方《さき》が攫《さら》はれたのぢやなくつて、自分《じぶん》が魅《つま》まれたものらしい。
『おゝい、おゝい。』
と智恵《ちゑ》のない声《こゑ》をしながら、無暗《むやみ》に人《ひと》を呼《よ》んで、雪枝《ゆきえ》は山路《やまみち》を駆《かけ》づり廻《まは》つた。
十四
「段々《だん/\》暗《くら》くなる、最《も》う目《め》は眩《くら》む、風《かぜ》が吹出《ふきだ》す。此《こ》の風《かぜ》は……昼間《ひるま》蒼《あを》く澄《す》んだ山《やま》の峡《かひ》から起《おこ》つて、障《さは》つて来《く》る樹《き》の枝《えだ》、岩角《いはかど》、谷間《たにあひ》に、白《しろ》い雲《くも》のちぎれて鳥《とり》の留《とま》るやうに見《み》えたのは未《ま》だ雪《ゆき》が残《のこ》つたのか、……と思《おも》ふほど横面《よこづら》を削《けづ》つて冷《つめ》たかつた。
『ま
前へ
次へ
全284ページ中78ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング