ゞ》いたら、姿《すがた》が近《ちか》く戻《もど》るのだらう、――と誰《た》が言《い》ふともなく自分《じぶん》で安心《あんしん》して、益々《ます/\》以前《もと》の考《かんがへ》に耽《ふけ》つて居《ゐ》ると、榾《ほだ》を焚《た》くか、炭《すみ》を焼《や》くか、谷間《たにま》に、彼方此方《かなたこなた》、ひら/\、ひら/\と蒼白《あをじろ》い炎《ほのほ》が揚《あが》つた。
 思《おも》はず彫像《てうざう》を焼《や》いた暖炉《ストーブ》の火《ひ》に心着《こゝろづ》いて、何故《なぜ》か、急《きふ》に女《をんな》の身《み》が危《あや》ぶまれて来《き》た。
『お浦《うら》。』
と呼《よ》んだが返事《へんじ》をしない。
『お浦《うら》、お浦《うら》。』と言《い》つたが、返事《へんじ》を為《し》ない。雪枝《ゆきえ》最《も》うきよろ/\し出《だ》した、其《それ》で二足三足《ふたあしみあし》づゝ、前後左右《ぜんごさいう》を、ばた/\と行《い》つたり、来《き》たり……
 慌《あはたゞ》しく成《な》つて来《き》た。
 第一《だいいち》、お浦《うら》ばかりぢやない、其処《そこ》に居《ゐ》た婆《ばあ》さんも見《み
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