、其《それ》に髣髴《そつくり》だ、と思《おも》ふと、想像《さうざう》が遠《とほ》く昔《むかし》へ返《かへ》つて、不思議《ふしぎ》なもので、袖《そで》を並《なら》べたお浦《うら》の姿《すがた》が、づゝと離《はな》れて遥《はる》かな向《むか》ふへ……」
と雪枝《ゆきえ》は語《かた》つて、押遣《おしや》るやうに手《て》を振《ふ》つた。
「其時《そのとき》の事《こと》を思《おも》ふと、老爺《おぢい》さん、恁《か》う言《い》ふ内《うち》にも貴方《あなた》の身体《からだ》も遠《とほ》くへ行《ゆ》く……ふら/\と間《あひだ》が離《はな》れる。」……
而《そ》して、婆《ばあ》さんの店《みせ》なりに、お浦《うら》の身体《からだ》が向《むか》ふへ歩行《ある》いて、見《み》る間《ま》に其《それ》が、谷《たに》を隔《へだ》てた山《やま》の絶頂《ぜつちやう》へ――湧出《わきで》る雲《くも》と裏表《うらおもて》に、動《うご》かぬ霞《かすみ》の懸《かゝ》つた中《なか》へ、裙袂《すそたもと》がはら/\と夕風《ゆふかぜ》に靡《なび》きながら薄《うす》くなる。
あの辺《あたり》へ、夕暮《ゆふぐれ》の鐘《かね》が響《ひ
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