が出《で》ませうか。』と右《みぎ》の手《て》を蓋《ふた》で胸《むね》へつけて、ころ/\と振《ふ》つて試《み》る。
と背中《せなか》から抱《だ》き締《し》めて、づる/\と遠《とほ》くへ持《も》つて行《ゆ》かれたやうに成《な》つて、雪枝《ゆきえ》は其時《そのとき》の事《こと》を思出《おもひだ》した。
「其《そ》の時《とき》の事《こと》と言《い》ふのは、父《ちゝ》が此《こ》の土地《とち》の祠《ほこら》から持《も》つて帰《かへ》つた、あの、掌《てのひら》に秘密《ひみつ》を蔵《かく》した木像《もくざう》です。」
「おゝ、」と頷《うなづ》く、老爺《ぢい》は腕組《うでぐみ》を為《し》た肩《かた》を動《うご》かす。
「あゝ、それぢや、木彫《きぼり》の美人《びじん》が、父《ちゝ》のナイフに突刺《つきさ》されて、暖炉《ストーブ》の中《なか》に焼《や》かれた時《とき》まで、些《ちつ》とも其《そ》の秘密《ひみつ》を明《あ》かさなかつた、微妙《びめう》な音《ね》のしたものは、同一《おなじ》、此《こ》の采《さい》であつたかも知《し》れない。
時《とき》に、傍《そば》に立《た》つた家内《かない》の姿《すがた》が
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