》れてから以来《このかた》、まるで一目《ひとめ》も寐《ね》ないんだから。……」
とせい/\、肩《かた》を揺《ゆすぶ》ると、其《そ》の響《ひゞ》きか、震《ふる》へながら、婦《をんな》は真黒《まつくろ》な髪《かみ》の中《なか》に、大理石《だいりせき》のやうな白《しろ》い顔《かほ》を押据《おしす》えて、前途《ゆくさき》を唯《たゞ》熟《じつ》と瞻《みまも》る。
二
「考《かんが》へると、能《よ》くあんな中《なか》で寐《ね》られたものだ。」
と男《をとこ》は尚《な》ほ半《なか》ば呟《つぶや》くやうに、
「言《い》つて見《み》れば敵《てき》の中《なか》だ。敵《てき》の中《なか》で、夜《よ》の明《あ》けるのを知《し》らなかつたのは実《じつ》に自分《じぶん》ながら度胸《どきやう》が可《い》い。……いや、然《さ》うではない、一時《いちじ》死《し》んだかも分《わか》らん。
然《さ》うだ、死《し》んだと言《い》へば、生死《いきしに》の分《わか》らなかつた、お前《まへ》の無事《ぶじ》な顔《かほ》を見《み》た嬉《うれ》しさに、張詰《はりつ》めた気《き》が弛《ゆる》んで落胆《がつかり》して
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