、其《それ》つ切《きり》に成《な》つたんだ。嘸《さぞ》お前《まへ》は、待《ま》ちに待《ま》つた私《わたし》と云《い》ふものが、目《め》の前《まへ》に見《み》えるか見《み》えないに、だらしなく、ぐつたりと成《な》つて了《しま》つて、どんなにか、頼《たの》みがひがないと怨《うら》んだらう。
 真個《まつたく》、安心《あんしん》の余《あま》り気絶《きぜつ》したんだと断念《あきら》めて、許《ゆる》してくれ。寐《ね》たんぢやない。又《また》、何《ど》うして寐《ね》られる……実《じつ》は一刻《いつこく》も疾《はや》く、此《こ》の娑婆《しやば》へ連出《つれだ》すために、お前《まへ》の顔《かほ》を見《み》たらば其《そ》の時《とき》! 壇《だん》を下《お》りるなぞは間弛《まだる》ツこい。天守《てんしゆ》の五階《ごかい》から城趾《しろあと》へ飛下《とびお》りて帰《かへ》らう! 其《そ》の意気込《いきご》みで出懸《でか》けたんだ、実際《じつさい》だよ。
 が、彼《あ》の頂上《ちやうじやう》から飛《とん》だ日《ひ》には、二人《ふたり》とも五躰《ごたい》は微塵《みじん》だ。五躰《ごたい》が微塵《みぢん》ぢや、顔
前へ 次へ
全284ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング