はなかつた。背後《うしろ》に、尚《な》ほ覚果《さめは》てぬ暁《あかつき》の夢《ゆめ》が幻《まぼろし》に残《のこ》つたやうに、衝《つ》と聳《そび》へた天守《てんしゆ》の真表《まおもて》。差懸《さしかゝ》つたのは大手道《おほてみち》で、垂々下《だら/\お》りの右左《みぎひだり》は、半《なか》ば埋《うも》れた濠《ほり》である。
空濠《からぼり》と云《い》ふではない、が、天守《てんしゆ》に向《むか》つた大手《おほて》の跡《あと》の、左右《さいう》に連《つら》なる石垣《いしがき》こそまだ高《たか》いが、岸《きし》が浅《あさ》く、段々《だん/\》に埋《うも》れて、土堤《どて》を掛《か》けて道《みち》を包《つゝ》むまで蘆《あし》が森《もり》をなして生茂《おひしげ》る。然《しか》も、鎌《かま》は長《とこしへ》に入《い》れぬ処《ところ》、折《をり》から枯葉《かれは》の中《なか》を透《す》いて、どんよりと霞《かすみ》の溶《と》けた水《みづ》の色《いろ》は、日《ひ》の出《で》を待《ま》つて、さま/″\の姿《すがた》と成《な》つて、其《それ》から其《それ》へ、ふわ/\と遊《あそ》びに出《で》る、到《いた》る
前へ
次へ
全284ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング