》が退《さが》つた。孰《いづれ》も首垂《うなだ》れた二人《ふたり》の中《なか》へ、草《くさ》に甲《かう》をつけて、あはれや、其《それ》でも媚《なまめ》かしい、優《やさ》しい腕《かひな》が仰向《あふむ》けに落《お》ちた。
 雪枝《ゆきえ》は唯《たゞ》肩《かた》を抱《いだ》いて身《み》を絞《しぼ》つた。
 老爺《ぢい》は、さすがに、まだ気丈《きじやう》で、対手《あひて》が然《さ》までに、口汚《くちぎたな》く詈《ののし》り嘲《あざ》ける、新弟子《しんでし》の作《さく》の如何《いか》なるかを、はじめて目前《まのあたり》験《ため》すらしく、横《よこ》に取《と》つて熟《じつ》と見《み》て、弱《よわ》つたと言《い》ふ顰《ひそ》み方《かた》で、少時《しばらく》ものも言《い》はなんだ。薄《うす》うは成《な》つたが、失《う》せ果《は》てない、底光《そこひかり》のする目《め》を細《ほそ》うして、
『いや、御出家《ごしゆつけ》。』
と調子《てうし》を変《か》へて……
『虫《むし》の居所《ゐどころ》で赫《くわつ》とも為《し》たがの、考《かんが》えて見《み》れば、お前様《めえさま》は、唯《たゞ》言托《ことづけ》を
前へ 次へ
全284ページ中246ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング