《そ》の小刀《こがたな》の輝《かゞや》くまゝに、恰《あたか》も鰭《ひれ》を振《ふる》ふと見《み》ゆる、香川雪枝《かがはゆきえ》[#「香川雪枝《かがはゆきえ》」はママ]も、さすがに名《な》を得《え》た青年《わかもの》であつた。
と此《こ》の老爺《ぢゞい》と雪枝《ゆきえ》とが、旭《あさひ》に向《むか》つて濠端《ほりばた》に小刀《こがたな》を使《つか》ふ。前面《ぜんめん》の大手《おほて》の彼方《かなた》に、城址《しろあと》の天守《てんしゆ》が、雲《くも》の晴《は》れた蒼空《あをぞら》に群山《ぐんざん》を抽《ぬ》いて、すつくと立《た》つ……飛騨山《ひださん》の鞘《さや》を払《はら》つた鎗《やり》ヶ|嶽《だけ》の絶頂《ぜつちやう》と、十里《じふり》の遠近《をちこち》に相対《あひたい》して、二人《ふたり》の頭上《づじやう》に他《た》の連峯《れんぽう》を率《ひき》ゐて聳《そび》ゆる事《こと》を忘《わす》れてはならぬ。
件《くだん》の天守《てんしゆ》の棟《むね》に近《ちか》い、五階目《ごかいめ》あたりの端近《はしぢか》な処《ところ》へ出《で》て、霞《かすみ》を吸《す》ひつゝ大欠伸《おほあくび》を為
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