しろあと》の天守《てんしゆ》だけ残《のこ》つたのが、翼《つばさ》を拡《ひろ》げて、鷲《わし》が中空《なかぞら》に翔《かけ》るか、と雲《くも》を破《やぶ》つて胸毛《むなげ》が白《しろ》い。と同《おな》じ高《たか》さに頂《いたゞき》を並《なら》べて、遠近《をちこち》の峯《みね》が、東雲《しのゝめ》を動《うご》きはじめる霞《かすみ》の上《うへ》に漾《たゞよ》つて、水紅色《ときいろ》と薄紫《うすむらさき》と相累《あひかさな》り、浅黄《あさぎ》と紺青《こんじやう》と対向《むかひあ》ふ、幽《かすか》に中《なか》に雪《ゆき》を被《かつ》いで、明星《みやうじやう》の余波《なごり》の如《ごと》く晃々《きら/\》と輝《かゞや》くのがある。……此《こ》の山中《さんちゆう》を、誰《たれ》と喧嘩《けんくわ》して、何処《どこ》から駆落《かけおち》して来《こ》やう? ……
 婦《をんな》は、と云《い》ふと、引担《ひつかつ》がれた手《て》は袖《そで》にくるまつて、有《あ》りや、無《な》しや、片手《かたて》もふら/\と下《さが》つて、何《なに》を便《たよ》るとも見《み》えず。臘《らふ》に白粉《おしろい》した、殆《ほとん
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