処々《ところ/″\》釦《ボタン》の断《ちぎ》れた背広《せびろ》を被《き》て、靴《くつ》足袋《たび》もない素跣足《すはだし》で、歩行《ある》くのに蹌踉々々《よろ/\》する。
 其《それ》が婦《をんな》を扶《たす》け曳《ひ》いた処《ところ》は、夜一夜《よひとよ》辿々《たど/\》しく、山路野道《やまみちのみち》、茨《いばら》の中《なか》を※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]※[#「彳+淌のつくり」、第3水準1−84−33]《さまよ》つた落人《おちうど》に、夜《よ》が白《しら》んだやうでもあるし、生命懸《いのちがけ》の喧嘩《けんくわ》から慌《あはたゞ》しく抜出《ぬけだ》したのが、勢《せい》が尽《つ》きて疲果《つかれは》てたものらしくもある。が、道行《みちゆき》にしろ、喧嘩《けんくわ》にしろ、其《そ》の出《で》て来《き》た処《ところ》が、遁《に》げるにも忍《しの》んで出《で》るにも、背後《うしろ》に、村《むら》、里《さと》、松並木《まつなみき》、畷《なはて》も家《いへ》も有《あ》るのではない。山《やま》を崩《くづ》して、其《そ》の峯《みね》を余《あま》した状《さま》に、昔《むかし》の城趾《
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