《さが》しなさい、其《それ》は御勝手《ごかつて》です。』
と嘲《あざ》けるやうに又《また》アハアハ笑《わら》ふ。いや、気味《きみ》の悪《わる》い……
『あれ、天狗様《てんぐさま》が憑移《のりうつ》らしやつた。』
『魔道《まだう》に墜《お》ちさしたものだんべい。』
と密《ひそめ》いて言《い》ふのが聞《きこ》えた。
 が、最《も》う、そんな事《こと》に頓着《とんぢやく》しない。人間《にんげん》などには目《め》も懸《か》けないで、暗《くら》い中《なか》を矢鱈《やたら》に、其処等《そこいら》の樹《き》を眺《なが》めた。刻《きざ》むに佳《い》い枝《えだ》や、幹《みき》や、と目《め》を光《ひか》らす……これも眼前《がんぜん》、魔《ま》に心《こゝろ》を通《かよ》はす挙動《きよどう》の如《ごと》くに見《み》えたであらう。
 けれども言出《いひだ》した事《こと》は、其《そ》の勢《いきほひ》だけに誰一人《たれいちにん》深切《しんせつ》づくにも敢《あへ》て留《と》めやうとするものは無《な》く、……其《そ》の同勢《どうぜい》で、ぞろ/\と温泉宿《をんせんやど》へ帰《かへ》る途中《とちゆう》、畷《なはて》を片傍
前へ 次へ
全284ページ中166ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング