みち》の第一歩《だいいつぽ》を辿《たど》り得《え》た。
 草《くさ》を開《ひら》いて、天守《てんしゆ》に昇《のぼ》る路《みち》も一筋《ひとすぢ》、城《じやう》ヶ|沼《ぬま》の水《みづ》を灌《そゝ》いで、野山《のやま》をかけて流《なが》すやうに足許《あしもと》から動《うご》いて見《み》える。
 我《わ》が妻《つま》、聞《き》くが如《ごと》くんば、御身《おんみ》は肉《にく》を裂《さ》かれ、我《われ》は腸《はらわた》を断《た》つ。相較《あひくら》べて劣《おと》りはせじ。堪《こら》へよ、暫時《しばし》、製作《せいさく》に骨《ほね》を削《けづ》り、血《ち》を灌《そゝ》いで、…其《そ》の苦痛《くつう》を償《つくな》はう、と城《じやう》ヶ|沼《ぬま》に対《たい》して、瞑目《めいもく》し、振返《ふりかへ》つて、天守《てんしゆ》の空《そら》に高《たか》く両手《りやうて》を翳《かざ》して誓《ちか》つた。
 其《そ》の時《とき》、お浦《うら》が唇《くちびる》を開《ひら》いて、僧《そう》の手《て》に落《おと》したと云《い》ふ、猪《ゐのしゝ》の牙《きば》の采《さい》を自分《じぶん》の口《くち》に含《ふく》んで居
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