、白歯《しらは》に啣《くは》えたものがある。白魚《しらうを》の目《め》のやうな黒《くろ》い点々《ぽち/\》が一《ひと》つ見《み》えた……口《くち》からは不躾《ぶしつけ》ながら、見《み》らるゝ通《とほ》り縛《いまし》めの後手《うしろで》なれば、指《ゆび》さへ随意《まゝ》には動《うご》かされず……あゝ、苦《くる》しい。と総身《そうしん》を震《ふる》はして、小《ちひ》さな口《くち》を切《せつ》なさうに曲《ゆが》めて開《あ》けると、煽《あふ》つ水《みづ》に掻乱《かきみだ》されて影《かげ》が消《き》えた。戞然《かちり》と音《おと》して足代《あじろ》の上《うへ》へ、大空《おほぞら》からハタと落《お》ちて来《き》たものがある……手《て》に取《と》ると霰《あられ》のやうに冷《つめ》たかつたが、消《き》えも解《と》けもしないで、破《やぶ》れ法衣《ごろも》の袖《そで》に残《のこ》つた。
『印《しるし》はこれぢや。』
と私《わたし》の掌《てのひら》を開《あ》けさせて、ころりと振《ふ》つて乗《の》せたのは、忘《わす》れもしない、双六谷《すごろくだに》で、夫婦《ふうふ》が未来《みらい》の有無《ありなし》を賭《か
前へ
次へ
全284ページ中144ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング