》と蒼《あを》く成《な》つた面影《おもかげ》と、ちらりと白《しろ》い爪尖《つまさき》ばかりの残《のこ》つた時《とき》で――獣《けもの》が頓《やが》て消《き》えたと思《おも》ふと、胸《むね》を映《うつ》した影《かげ》が波立《なみだ》ち、髪《かみ》を宿《やど》した水《みづ》が動《うご》いた……
『御身《おみ》が女房《にようばう》の光景《ありさま》ぢや。』と坊主《ばうず》が私《わたし》の顔《かほ》の前《まへ》へ、何故《なぜ》か大《おほき》な掌《てのひら》を開《ひら》けて出《だ》した。」
誂《あつら》へ物《もの》
二十五
「私《わたし》は息《いき》を引《ひ》いて退《すさ》つたんです。」と雪枝《ゆきえ》は尚《な》ほ語《かた》り続《つゞ》けた。
「……水《みづ》の中《なか》からともなく、空《そら》からともなく、幽《かすか》に細々《ほそ/″\》とした消《き》えるやうな、少《わか》い女《をんな》の声《こゑ》で、出家《しゆつけ》を呼《よ》んだ、と言《い》ひます。
而《そ》して、百年《ひやくねん》以来《いらい》、天守《てんしゆ》に棲《す》む或《ある》怪《あやし》
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