ちが》う。――黒髪《くろかみ》が岸《きし》へ、足《あし》が彼方《かなた》へ、たとへば向《むか》ふの汀《みぎは》から影《かげ》が映《さ》すのを、倒《さかさま》に視《なが》める形《かたち》。つく/″\と見《み》れば無残《むざん》や、形《かたち》のない声《こゑ》が言交《いひか》はした如《ごと》く、頭《かしら》が畳《たゝみ》の上《うへ》へ離《はな》れ、裙《すそ》が梁《うつばり》にも留《と》まらずに上《うへ》から倒《さかさま》に釣《つる》して有《あ》る……
 と身《み》を悶《もが》くか水《みづ》が揺《ゆ》れるか、わな/\と姿《すがた》が戦《おのゝ》く――天守《てんしゆ》の影《かげ》の天井《てんじやう》から真黒《まつくろ》な雫《しづく》が落《お》ちて、其《そ》の手足《てあし》に懸《かゝ》つて、其《そ》のまゝ髪《かみ》の毛《け》を伝《つた》ふやうに、長《なが》く成《な》つて、下《した》へぽた/\と落《お》ちて、ずらりと伸《の》びて、廻《まは》りつ畝《うね》りつするのを、魚《うを》の泳《およ》ぐのか、と思《おも》ふと幾条《いくすぢ》かの蛇《へび》で、梁《うつばり》にでも巣《す》をくつて居《ゐ》るらしい
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