雲《くも》がむくむくと通《とほ》つて行《ゆ》く。其《そ》の気勢《けはひ》が、やがて昼間《ひるま》見《み》た天守《てんしゆ》の棟《むね》の上《うへ》に着《つ》いた程《ほど》に、ドヽンと凄《すご》い音《おと》がして、足代《あじろ》に乗《の》つた目《め》の下《した》、老人《らうじん》が沈《しづ》めて去《い》つた四《よ》つ手網《であみ》の真中《まんなか》あたりへ、したゝかな物《もの》の落《お》ちた音《おと》。水《みづ》が環《わ》に成《な》つて、颯《さつ》と網《あみ》を乗出《のりだ》して展《ひろ》げた中《なか》へ、天守《てんしゆ》の影《かげ》が、壁《かべ》も仄白《ほのじろ》く見《み》えるまで、三重《さんぢう》あたりを樹《き》の梢《こずゑ》に囲《かこ》まれながら、歴然《あり/\》と映《うつ》つて出《で》た。
不思議《ふしぎ》や、其《そ》の天守《てんしゆ》の壁《かべ》を透《す》いて、中《なか》に灯《ひ》を点《つ》けたやうに、魚《うを》の形《かたち》した黄色《きいろ》い明《あかり》のひら/\するのが、矢間《やざま》の間《あひ》から、深《ふか》い処《ところ》に横開《よこひら》けで、網《あみ》の目《め》
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