こゑ》啼《な》かせろ。』
『まだ/\、まだ/\、山《やま》の中《なか》の約束《やくそく》は、人間《にんげん》のやうに間違《まちが》はぬ。今《いま》は未《ま》だ時鳥《ほとゝぎす》の啼《な》く時節《じせつ》で無《な》い。』
『唯《たゞ》姿《すがた》だけ見《み》せれば可《い》い。温泉宿《ゆのやど》の二階《にかい》は高《たか》し。あの欄干《らんかん》から飛込《とびこ》ませろ、……女房《にようばう》は帰《かへ》らぬぞ、女房《にようばう》は帰《かへ》らぬぞ、と羽《はね》で天井《てんじやう》をばさばさ遣《や》らせろ。』
『男《をとこ》は、女《をんな》の魂《たましひ》が時鳥《ほとゝぎす》に成《な》つた夢《ゆめ》を見《み》て、白《しろ》い毛布《けつと》で包《つゝ》んで取《と》らうと血眼《ちまなこ》で追駆《おつか》け回《まは》さう……寐惚面《ねぼけづら》見《み》るやうだ。』
 どつと笑《わら》つて、天守《てんしゆ》の方《はう》へ消《き》えた後《あと》は、颯々《さつ/\》と風《かぜ》に成《な》つた。
 が、田畠野《たばたけの》の空《そら》を、山《やま》の端《は》差《さ》して、何《なん》となく暗《やみ》ながら
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