るは。』
『水《みづ》に拡《ひろ》がる黒髪《くろかみ》ぢや、』
『山《やま》の婆々《ばゞ》の白髪《しらが》のやうに、すく/\と痛《いた》うは刺《さ》さぬ。』
『蛇《へび》よりは心地《こゝち》よやな。』と次第《しだい》に声《こゑ》が風《かぜ》に乗《の》り行《ゆ》く……
二十四
びやう/\と凄《すご》い声《こゑ》で、形《かたち》は見《み》えず、沼《ぬま》の上《うへ》で空《そら》ざまに犬《いぬ》が啼《な》く。
『犬《いぬ》よ、犬《いぬ》よ。』
『おう。』と吠《ほ》えた。
『人間《にんげん》の目《め》には見《み》えぬ……城山《しろやま》の天守《てんしゆ》の上《うへ》に、女《をんな》は梁《うつばり》から釣《つる》して置《お》く、と男《をとこ》に言《い》へ!』
『何《なに》が、彼《あ》の耳《みゝ》へ入《はい》らう。』
『わん、と啼《な》いたら、犬《いぬ》だと思《おも》はう、彼《あ》の痴漢《たわけ》が。』
と嘲《あざけ》る声《こゑ》。傍《かたはら》から老《ふ》けた声《こゑ》して、
『……其《そ》の言附《ことづけ》は、犬《いぬ》では不可《いか》ぬ。時鳥《ほとゝぎす》に一声《ひと
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