》へ、』
『傷《きづ》を洗《あら》へ』
『小袖《こそで》を剥《は》がせ』
『此《こ》の紫《むらさき》は?』
『菖蒲《あやめ》よ、藤《ふぢ》よ。』
『帯《おび》が長《なが》いぞ。』
『蔦《つた》、桂《かつら》、山鳥《やまどり》の尾《を》よ。』
『下着《したぎ》も奪《うば》へ、』
『此《こ》の紅《くれなゐ》は、』
『もみぢ、花《はな》。』
『やあ、此《こ》の膚《はだえ》は、』
『山陰《やまかげ》の雪《ゆき》だ。』
ひいツ、と魂消《たまぎ》つて悲鳴《ひめい》を上《あ》げた、糸《いと》のやうな女《をんな》の声《こゑ》が谺《こだま》を返《かへ》して沼《ぬま》に響《ひゞ》いた。
坊主《ばうず》が此処《こゝ》まで言《い》つた時《とき》、聞《き》いてた私《わたし》は熱鉄《ねつてつ》のやうな汗《あせ》が流《なが》れた。」
と雪枝《ゆきえ》は老爺《ぢゞい》に語《かた》りながら唇《くちびる》を戦《おのゝ》かせて、
「尚《な》ほ坊主《ばうず》が続《つゞ》けて、話《はな》す。
さあ何《なに》ものかゞ寄《よ》つて集《たか》つて、誰《たれ》かを白裸《まるはだか》にした、と思《おも》へば、
『犬《いぬ》よ、
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