ほし》も懸《かゝ》らず、鬢《びん》の香《か》のする雫《しづく》も落《お》ちぬ。あゝ、引導《いんだう》を渡《わた》したな。勿躰《もつたい》ない、名僧智識《めいそうちしき》で有《あ》つたもの、と足代《あじろ》の藁《わら》を頂《いたゞ》いたゞがの、……其《それ》では、お前様《めえさま》が私《わし》の後《あと》へござつて、其《そ》の坊主《ばうず》に逢《あは》しつたものだんべい。
……までは、はあ、分《わか》つたが、私《わし》が城《じやう》ヶ|沼《ぬま》の水《みづ》の映《うつ》る女《をんな》を見《み》はじめたは久《ひさし》い以前《いぜん》ぢや。お前様《めえさま》湯治《たうぢ》にござつて、奥様《おくさま》の行方《ゆきがた》が知《し》れなく成《な》つたは、つひ此《こ》の頃《ごろ》の事《こと》ではねえだか、坊様《ばうさま》は何処《どこ》で聞《き》いて、奥様《おくさま》の言《こと》づけを為《し》たゞがの。」
「其《それ》を坊様《ばうさん》が言《い》つたんです。其《そ》の出家《しゆつけ》の言《い》ふには、
『……人《ひと》は知《し》らぬが、此処《こゝ》に居《ゐ》た老人《らうじん》に、水《みづ》の中《なか
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