坐《すは》らせて、足代《あじろ》の上《うへ》を黒坊主《くろばうず》と入替《いれかは》つた。
さあ、身代《みがは》りは出来《でき》たぞ! 一目《ひとめ》彼《あ》の女《をんな》を見《み》され、即座《そくざ》に法衣《ころも》を着《き》た巌《いは》と成《な》つて、一寸《いつすん》も動《うご》けまい、と暗《やみ》の夜道《よみち》を馴《な》れた道《みち》ぢや、すた/\と小家《こや》へ帰《かへ》つてのけた……
翌朝《あけのあさ》疾《はや》く握飯《にぎりめし》を拵《こしら》へ、竹《たけ》の皮《かは》包《つゝ》みに為《し》て、坊様《ばうさま》を見舞《みまひ》に行《ゆ》きつけ…靄《もや》の中《なか》に影《かげ》もねえだよ。
はあ、よもや、とは思《おも》ふたが、矢張《やつぱ》り鯰《なまづ》めが来《う》せたげな。えゝ、埒《らち》もない、と気《き》が抜《ぬ》けて、又《また》番人《ばんにん》ぢや、と落胆《がつかり》したゞが、其《そ》の晩《ばん》もう一度《いちど》行《ゆ》く、と待《ま》つとも無《な》う夜《よる》が更《ふ》けても、何時《いつも》の影《かげ》は映《うつ》らなんだ。四手《よつで》を上《あ》げても星《
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