しつた坊主《ばうず》が来《き》て、のつそり立《た》つた。や、これも怪《あや》しい。顔色《かほいろ》の蒼《あを》ざめた墨《すみ》の法衣《ころも》の、がんばり入道《にふだう》、影《かげ》の薄《うす》さも不気味《ぶきみ》な和尚《をしやう》、鯰《なまづ》でも化《ば》けたか、と思《おも》ふたが、――恁《か》く/\の次第《しだい》ぢや、御出家《ごしゆつけ》、……大方《おほかた》は亡霊《ばうれい》が廻向《えかう》を頼《たの》むであらうと思《おも》ふで、功徳《くどく》の為《た》め、丑満《うしみつ》まで此処《こゝ》にござつて引導《いんだう》を頼《たの》むでがす。――旅《たび》の疲労《つかれ》も有《あ》らつしやらうか、何《なん》なら、今夜《こんや》は私《わし》が小家《こや》へ休《やす》んで、明日《あす》の晩《ばん》にも、と言《い》ふたが、其《それ》には及《およ》ばぬ……若《も》しや、其《それ》が真実《しんじつ》なら、片時《へんし》も早《はや》く苦艱《くかん》を救《すく》ふて進《しん》ぜたい。南無南無《なむなむ》と口《くち》の裡《うち》で唱《とな》うるで、饗応振《もてなしぶり》に、藁《わら》など敷《し》いて
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