では有《あ》るまい。伝《つた》へ聞《き》く沼《ぬま》の中《なか》へは古城《こじやう》の天守《てんしゆ》が倒《さかさま》に宿《やど》る……我《わ》が祖先《そせん》の術《じゆつ》の為《ため》に、怪《あや》しき最後《さいご》を遂《と》げた婦《をんな》が、子孫《しそん》に絡《まつは》る因縁事《いんねんごと》か。其《それ》とも弔《とむ》らはれず浮《う》かばぬ霊《れい》が、無言《むごん》の中《うち》に供養《くやう》を望《のぞ》むのであらうも知《し》れぬ。独《ひと》りでは何《なに》しろ荷《に》が重《おも》い。村《むら》の誰《たれ》にかも見《み》せて、怪《あや》しさを唯《たゞ》※[#「さんずい+散」、122−3]《しぶき》の如《ごと》く散《ち》らさう、と人《ひと》に告《つ》げぬのでは無《な》いけれども、昼間《ひるま》さへ、分《わ》けて夜《よる》に成《な》つて、城《じやう》ヶ|沼《ぬま》の三町四方《さんちやうしはう》へ寄附《よりつ》かうと言《い》ふ兄哥《せなあ》は居《を》らぬ。
 殆《ほと》んど我身《わがみ》を持《も》て余《あま》した頃《ころ》の、其《そ》の夜《よ》……
「お前様《めえさま》が逢《あ》は
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