蹲《つくば》つて、或《ある》刻限《こくげん》まで待《ま》たねばならぬ。で、屋根《やね》から月《つき》が射《さ》すやうな訳《わけ》には行《ゆ》かない。其処《そこ》で、稼《かせ》ぎも為《せ》ず活計《くらし》も立《た》てず、夜毎《よごと》に沼《ぬま》の番《ばん》の難行《なんぎやう》は、極楽《ごくらく》へ参《まゐ》りたさに、身投《みな》げを為《す》るも同《おな》じ事《こと》、と老爺《ぢゞい》は苦笑《にがわら》ひをしながら言《い》つた。
 そんなら、四《よ》つ手場《でば》を留《や》めにして、小家《こや》で草鞋《わらぢ》でも造《つく》れば可《いゝ》が、因果《いんぐわ》と然《さ》うは断念《あきら》められず、日《ひ》が暮《く》れると、そゝ髪立《がみた》つまで、早《は》や魂《たましひ》は引窓《ひきまど》から出《で》て、城《じやう》ヶ|沼《ぬま》を差《さ》してふわ/\と白《しろ》い蝙蝠《かはほり》のやうに※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]※[#「彳+淌のつくり」、第3水準1−84−33]《さまよ》ひ行《ゆ》く。
 待《ま》てよ、恁《か》うまで、心《こゝろ》を曳《ひ》かるゝのは、よも尋常《たゞ》ごと
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