しづ》めたやうに、襟《ゑり》も咽喉《のど》も色《いろ》が分《わか》つて、口《くち》で言《い》ひやうは知《し》らぬけれど、目附《めつき》なり額《ひたひ》つきなり、押魂消《おつたまげ》た別嬪《べつぴん》が、過般中《いつかぢゆう》から、同《おな》じ時分《じぶん》に、私《わし》と顔《かほ》を合《あ》はせると、水《みづ》の中《なか》で莞爾《につこり》笑《わら》ふ。……
 や、其《そ》の笑顔《ゑがほ》を思《おも》ふては、地韜《ぢだんだ》踏《ふ》んで堪《こら》へても小家《こや》へは寐《ね》られぬ。雨《あめ》が降《ふ》れば簑《みの》を着《き》て、月《つき》の良《い》い夜《よ》は頬被《ほゝかぶ》り。つひ一晩《ひとばん》も欠《か》かさねえで、四手場《よつでば》も此《こ》の爺《ぢい》も、岸《きし》に居着《ゐつ》きの巌《いは》のやうだ――扨《さて》気《き》が着《つ》けばひよんな事《こと》、沼《ぬま》の主《ぬし》に魅入《みい》られた、何《なに》か前世《ぜんせ》の約束《やくそく》で、城《じやう》ヶ|沼《ぬま》の番人《ばんにん》に成《な》つたゞかな。何処《どこ》で死《し》ぬ身《み》と考《かんが》える、と心細《こゝろ
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