無《な》う、やがて丑満《うしみつ》と思《おも》ふ、昨夜《ゆふべ》の頃《ころ》、ソレ此処《こゝ》で、と網《あみ》を取《と》つたが、其《そ》の晩《ばん》は上《うへ》へ引揚《ひきあ》げる迄《まで》もなく、足代《あじろ》の上《うへ》から水《みづ》を覗《のぞ》くと歴然《あり/\》と又《また》顔《かほ》が映《うつ》つた。
と老爺《ぢゞい》が話《はな》す。
「聞《き》かつせえまし、肩《かた》から胸《むね》の辺《あたり》まで、薄《うつす》らと見《み》えるだね、試《ため》して見《み》ろで、やつと引《ひ》き揚《あ》げると、矢張《やつぱ》り網《あみ》に懸《かゝ》つて水《みづ》を離《はな》れる……今度《こんど》は、ヤケにゆつさゆさ引振《ひつぷる》ふと、揉消《もみけ》すやうにすツと消《き》えるだ――其処《そこ》でざぶんと沈《しづ》める、と又《また》水《みづ》の中《なか》へ露《あら》はれる。……
三夜《みよさ》四夜《よよさ》と続《つゞ》いたが、何時《いつ》も其《そ》の時刻《じこく》に屹《きつ》と映《うつ》るだ。追々《おひ/\》馴染《なじみ》が度重《たびかさな》ると、へい、朝顔《あさがほ》の花《はな》打沈《ぶち
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