毛《しつぽ》だか、網《あみ》の中《なか》の婦《をんな》の姿《すがた》がふら/\動《うご》くだ。はて、変《へん》だと手《て》を離《はな》すと、ざぶりと沈《しづ》むだ。其《そ》の網《あみ》の底《そこ》の方《はう》……水《みづ》ン中《なか》に、ちら/\と顔《かほ》が見《み》える……其《そ》のお前様《めえさま》、白《しろ》い顔《かほ》が正的《まとも》に熟《じつ》と此方《こちら》を見《み》るだよ。
 や、早《は》や其時《そのとき》は畚《びく》が足代《あじろ》を落《おつ》こちて、泥《どろ》の上《うへ》に俯向《うつむ》けだね。其奴《そいつ》が、へい、足《あし》を生《は》やして沼《ぬま》へ駆込《かけこ》まぬが見《み》つけものだで、畜生《ちくしやう》め、此《こ》の術《て》で今夜《こんや》は占《し》めをつた。
 何《なん》のつけ、最《も》う二度《にど》と来《く》る事《こと》ではない、とふつ/\我《が》を折《を》つて帰《かへ》りましけえ。怪※[#「りっしんべん+牙」、119−16]《をかし》な事《こと》には、眉《まゆ》が何《ど》う、目《め》が何《ど》う、と云《い》ふ覚《おぼえ》はねえだが、何《なん》とも言《
前へ 次へ
全284ページ中121ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング