裂《はりさ》けるばかり縦《たて》に成《な》つて、ざつと両隅《りやうすみ》から高《たか》く星《ほし》の空《そら》へ影《かげ》が映《さ》して、沼《ぬま》の上《うへ》を離《はな》れる時《とき》、網《あみ》の目《め》を灌《そゝ》いで落《お》ちる水《みづ》の光《ひか》り、霞《かすみ》の懸《かゝ》つた大《おほき》な姿見《すがたみ》の中《なか》へ、薄《うつす》りと女《をんな》の姿《すがた》が映《うつ》つた。
「よく、はい、噂《うはさ》に聞《き》くお客様《きやくさま》が懸《かゝ》つたやうだね。恁《か》う、其《そ》の網《あみ》を引張《ひつぱ》つて、」
 老爺《ぢゞい》は手《て》で掴《つか》んで腰《こし》を反《そ》らして言《い》ふのである。
「引《ひ》き懸《か》けた処《ところ》でがんしよ……鮒《ふな》一尾《いつぴき》入《はい》つた手応《てごたへ》もねえで、水《みづ》はざんざと引覆《ぶつけえ》るだもの。人間《にんげん》の突入《つゝぺえ》つた重《おも》さはねえだ。で、持《も》つたまま大揺《おほゆ》りに身躰《からだ》ごと網《あみ》を揺《ゆ》れば、矢張《やつぱり》揺《ゆ》れて、衣服《きもの》だか鰭《ひれ》だか、尾
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