づ》めて、身体《からだ》を張《は》つて、体《てい》よく賃無《ちんな》しで雇《やと》はれた城《じやう》ヶ|沼《ぬま》の番人《ばんにん》同然《どうぜん》、寐酒《ねざけ》にも成《な》らず、一向《いつかう》に市《いち》が栄《さか》えぬ。

         二十一

 魚《うを》が寄《よ》ると見《み》れば、網《あみ》を揚《あ》げる、網《あみ》を両手《りやうて》で、ぐい、と引《ひ》いて、目《め》も心《こゝろ》も水《みづ》に取《と》られる時《とき》の惨憺《みじめ》さ。ガサリなどゝ音《おと》をさして、畚《びく》を俯向《うつむ》けに引繰返《ひきくりかへ》す、と這奴《しやつ》にして遣《や》らるゝはまだしもの事《こと》、捕《と》つた魚《うを》が飜然《ひらり》と刎《は》ねて、ざぶんと水《みづ》に入《はい》つてスイと泳《およ》ぐ。
 余《あまり》の他愛《たあい》なさに、効無《かひな》い殺生《せつしやう》は留《やめ》にしやう、と発心《ほつしん》をした晩《ばん》、これが思切《おもひき》りの網《あみ》を引《ひ》くと、一面《いちめん》城《じやう》ヶ|沼《ぬま》の水《みづ》を飜《ひるがへ》して、大四手《おほよつで》が張
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