た》へたのである。
 はじめの内《うち》、……獲《え》た魚《うを》は畚《びく》の中《なか》を途中《とちゆう》で消《き》えた。荻尾花道《をぎをばなみち》、木《き》の下路《したみち》、茄子畠《なすびばたけ》の畝《あぜ》、籔畳《やぶだゝみ》、丸木橋《まるきばし》、……城《じやう》ヶ|沼《ぬま》に漁《すなど》つて、老爺《ぢゞい》が小家《こや》に帰《かへ》る途中《とちゆう》には、穴《あな》もあり、祠《ほこら》もあり、塚《つか》もある。月夜《つきよ》の陰《かげ》、銀河《ぎんが》の絶間《たえま》、暗夜《やみ》にも隈《くま》ある要害《えうがい》で、途々《みち/\》、狐《きつね》狸《たぬき》の輩《やから》に奪《うば》ひ取《と》られる、と心着《こゝろづ》き、煙草入《たばこいれ》の根附《ねつけ》が軋《きし》んで腰《こし》の骨《ほね》の痛《いた》いまで、下《した》つ腹《ぱら》に力《ちから》を籠《こ》め、気《き》を八方《はつぱう》に配《くば》つても、瞬《またゝき》をすれば、一《ひと》つ失《う》せ、鼻《はな》をかめば二《ふた》つ失《う》せ、嚏《くしやみ》をすればフイに成《な》る。……で、未《ま》だも途中《とちゆう
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