と其《そ》の坊主《ばうず》が話《はな》したんです。……ぢや、老爺《おぢい》さん――老人《らうじん》が貴下《あなた》なら、貴下《あなた》が坊主《ばうず》に話《はな》された、と云《い》ふ、城《じやう》ヶ|沼《ぬま》の鯉《こひ》鮒《ふな》は、網《あみ》で掬《すく》へば漁《れう》はあるが、畚《びく》に入《い》れると直《す》ぐに消《き》えて、一尾《いつぴき》も底《そこ》に留《たま》らぬ。鰌《どぜう》一尾《いつぴき》獲物《えもの》は無《な》い。無《な》いのを承知《しやうち》で、此処《こゝ》に四《よ》ツ手《で》を組《く》むと言《い》ふのは、夜《よ》が更《ふ》けると水《みづ》に沈《しづ》めた網《あみ》の中《なか》へ、何《なん》とも言《い》へない、美《うつく》しい女《をんな》が映《うつ》る。其《それ》を見《み》たい為《ため》に、独《ひと》り恁《か》うやつて構《かま》へて居《ゐ》る、……とお話《はなし》があつたやうに、其《そ》の時《とき》坊主《ばうず》から聞《き》いたんです……それは真個《ほんとう》の事《こと》ですか? 老爺《おぢい》さん。」
 一切《いつさい》、事実《じじつ》だ、と老爺《ぢゞい》は答《こ
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