《えん》が有《あ》るだね。」
「確《たしか》に師弟《してい》の縁《えん》が有《あ》ると思《おも》ひます、」
と雪枝《ゆきえ》は慇懃《ゐんぎん》に言《い》ふ。
「まあ、串戯《じやうだん》は措《お》かつせえ。……時《とき》に其《そ》の坊様《ばうさま》は何《なん》と云《い》ふでがすね。」
「えゝ、……
『私《わし》は旅《たび》から旅《たび》をふら/\と経廻《へめぐ》るものぢやが、』と坊様《ばうさま》が言《い》ふんです。
『日《ひ》が暮《く》れて此処《こゝ》を通《とほ》りかゝると、今《いま》、私《わし》が御身《おみ》に申《まを》したやうに、沼《ぬま》の水《みづ》は深《ふか》いぞ、と気《き》を注《つ》けたものがある。此《こ》の四手場《よつでば》に片膝《かたひざ》で、暗《やみ》の水《みづ》を視詰《みつ》めて居《ゐ》た老人《らうじん》ぞや。さて漁《れう》はあるか、と問《と》へば、漁《れう》は有《あ》るが、魚《さかな》は一向《いつかう》に獲《と》れぬと言《い》ふ。
 希有《けう》な事《こと》を聞《き》くものぢや、其《そ》の理由《いはれ》は、と尋《たづ》ねると、老人《らうじん》の返事《へんじ》には、』

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