みづ》の静《しづか》な時《とき》は大《おほき》い角《つの》の龍《りう》が底《そこ》に沈《しづ》んだやうで、風《かぜ》がさら/\と吹《ふ》く時《とき》は、胴中《どうなか》に成《な》つて水《みづ》の面《おもて》を鱗《うろこ》が走《はし》るで、お城《しろ》の様子《やうす》が覗《のぞ》けるだから、以前《いぜん》は沼《ぬま》の周囲《まはり》に御番所《ごばんしよ》が有《あ》つた。最《もつと》もはあ、殺生《せつしやう》禁制《きんせい》の場所《ばしよ》でがしたよ。
其《そ》の上《うへ》、主《ぬし》が居《ゐ》て住《す》む、と云《い》ふて、今以《いまもつ》て誰一人《たれひとり》釣《つり》をするものはねえで、鯉《こひ》鮒《ふな》の多《いか》い事《こと》。……
お前様《めえさま》が温泉《ゆ》の宿《やど》で見《み》さしつけな、囲炉裡《ゐろり》の自在留《じざいどめ》のやうな奴《やつ》さ、山蟻《やまあり》が這《は》ふやうに、ぞろ/\歩行《ある》く。
あの、沼《ぬま》へ、待《ま》たつせえ、」
と又《また》眉《まゆ》をびく/\遣《や》つた。
「四手場《よつでば》を拵《こさ》えて網《あみ》を張《は》るものは近郷近在
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