》が温泉《をんせん》へ来《き》さつしやつた街道端《かいだうばた》の、田畝《たんぼ》に近《ちか》い樹林《きはやし》の中《なか》にある大《おほき》い沼《ぬま》よ。――何《なに》が、其《そ》の水《みづ》は谿河《たにがは》の流《ながれ》を堰《せ》いて溜《た》めたでは無《な》うて、昔《むかし》から此《こ》の……此処《こゝ》な濠《ほり》の水《みづ》が地《ち》の底《そこ》を通《かよ》ふと言《い》ふだね。……
お天守《てんしゆ》の下《した》へも穴《あな》が徹《とほ》つて、お城《しろ》の抜道《ぬけみち》ぢや言《い》ふ不思議《ふしぎ》な沼《ぬま》での、……私《わし》が祖父殿《おんぢいどん》が手細工《てざいく》の船《ふね》で、殿様《とのさま》の妾《めかけ》を焼《や》いたと言《い》つけ。其《そ》ん時《とき》はい、其《そ》の影《かげ》が、城《じやう》ヶ|沼《ぬま》へ歴然《あり/\》と映《うつ》つて、空《そら》が真黒《まつくろ》に成《な》つたと言《い》ふだ。……其《それ》さ真個《ほんとう》か何《ど》うか分《わか》らねども、お天守《てんしゆ》の棟《むね》は、今以《いまも》つて明《あきら》かに映《うつ》るだね。水《
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