事《へんじ》を為《し》ました。
『やれ/\、気《き》の毒《どく》。』
とさら/\と法衣《ころも》の袖《そで》を掻合《かきあ》はせる音《おと》がして、
『私《わし》は旅《たび》のものぢやが、此《こ》の沼《ぬま》は、城《じやう》ヶ|沼《ぬま》と言《い》ふげぢやよ。』
老爺《おぢい》さん、其処《そこ》は城《じやう》ヶ|沼《ぬま》と言《い》ふ処《ところ》だつた。」
雪枝《ゆきえ》は息《いき》せはしく成《な》つて一息《ひといき》吐《つ》く。ト老爺《ぢい》は煙草《たばこ》を払《はた》いた。吸殻《すゐがら》の落《おち》た小草《をぐさ》の根《ね》の露《つゆ》が、油《あぶら》のやうにじり/\と鳴《な》つて、煙《けむり》が立《た》つと、ほか/\薄日《うすび》に包《つゝ》まれた。雲《くも》は稍《やゝ》薄《うす》く成《な》つたが、天守《てんしゆ》の棟《むね》は、聳《そび》え立《た》つ峯《みね》よりも空《そら》に重《おも》い。
「えゝ、城《じやう》ヶ|沼《ぬま》の。はあ、夢中《むちゆう》で其処《そこ》ら駆廻《かけめぐ》らしつたものと見《み》える……それは山《やま》の上《うへ》では無《な》い。お前様《めえさま
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