、蔽被《おつかぶ》さるやうに覗《のぞ》いて、
『待《ま》て、待《ま》て、死骸《しがい》を見《み》たでは無《な》い。ぢやが、正《しやう》のものでもなかつた……謂《い》はゞ影《かげ》ぢやな。声《こゑ》の有《あ》る色《いろ》の有《あ》る影法師《かげぼふし》ぢや……其《そ》のものから、御身《おみ》に逢《あ》ふて話《はな》してくれい、と私《わし》が托言《ことづけ》をされたよ。……
 何《なに》かな、御身《おみ》は遠方《ゑんぱう》から、近頃《ちかごろ》此《こ》の双六《すごろく》の温泉《をんせん》へ、夫婦《ふうふ》づれで湯治《たうぢ》に来《き》て、不図《ふと》山道《やまみち》で其《そ》の内儀《ないぎ》の行衛《ゆくゑ》を失《うしな》ひ、半狂乱《はんきやうらん》に捜《さが》してござる御仁《ごじん》かな。』とつけ/\訊《たづ》ねる。
 女房《にようばう》が失《う》せて半狂乱《はんきやうらん》、」
と雪枝《ゆきえ》は、思出《おもひだ》すのも、口惜《くや》しさうに歯噛《はが》みをした。
「察《さつ》して下《くだ》さい、……唯《たゞ》其《そ》の音信《たより》の聞《き》きたさに、
『えゝ、其《その》ものです』と返
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