動《うご》いて、薄日《うすび》が射《さ》して、反《そ》らした胸《むね》と、仰《あふ》いだ其《そ》の額《ひたひ》を微《かす》かに照《て》らすと、ほつと酔《よ》つたやうな色《いろ》をしたが、唇《くちびる》は白《しろ》く、目《め》は血走《ちばし》るのである。
老爺《ぢゞい》は小首《こくび》を傾《かたむ》けた。
急《きふ》に又《また》雪枝《ゆきえ》は、宛然《さながら》稚子《おさなご》の為《す》るやうに、両掌《りやうて》を双《さう》の目《め》に確《しか》と当《あ》てゝ、がつくり俯向《うつむ》く、背中《せなか》に雲《くも》の影《かげ》が暗《くら》く映《さ》した。
「其《そ》の中《うち》に四辺《あたり》が真暗《まつくら》に成《な》つた。暗《くら》く成《な》つたのは夜《よる》だらう、夜《よる》の暗《くら》さの広《ひろ》いのは、田《た》か畠《はたけ》か平地《ひらち》らしい、原《はら》かも知《し》れない……一目《ひとめ》其《そ》の際限《さいげん》の無《な》い夜《よる》の中《なか》に、墨《すみ》が染《にじ》んだやうに見《み》えたのは水《みづ》らしかつた……が、水《みづ》でも構《かま》はん、女房《にようば
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