ろ》く見《み》えるばかりで、黒髪《くろかみ》濃《こ》い緑《みどり》、山椿《やまつばき》の一輪《いちりん》紅色《べにいろ》をした褄《つま》に擬《まが》ふやうな色《いろ》さへ、手《て》がゝりは全然《まるで》ない。
 目《め》が眩《くら》むほど腹《はら》が空《す》けば、よた/\と宿《やど》へ帰《かへ》つて、
『おい、飯《めし》を食《く》はせろ。』
 で、又《また》飛出《とびだ》す、崖《がけ》も谷《たに》もほつゝき歩行《ある》く、――と雲《くも》が白《しろ》く、山《やま》が青《あを》い。……外《ほか》に見《み》えるものは何《なん》にもない。目《め》が青《あを》く脳《なう》が青《あを》く成《な》つて了《しま》つたかと思《おも》ふばかり。時々《とき/″\》黒《くろ》いものがスツスツと通《とほ》るが、犬《いぬ》だか人間《にんげん》だか差別《さべつ》がつかぬ……客人《きやくじん》は変《へん》に成《な》つた、気《き》が違《ちが》つた、と云《い》ふ声《こゑ》が嘲《あざ》ける如《ごと》く、憐《あはれ》む如《ごと》く、呟《つぶや》く如《ごと》く、また咒咀《のろ》ふ如《ごと》く耳《みゝ》に入《はい》る……
『お
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