むね》が裂《さ》けるほど亭主《ていしゆ》の言葉《ことば》が気《き》に障《さは》つた。最《も》う死骸《しがい》に成《な》つてる、と言《い》つたやうな、奴《やつ》の言種《いひぐさ》が何《なん》とも以《もつ》て可忌《いまは》しい。
『己《おれ》が見着《みつ》けて持《も》つて帰《かへ》る、死骸《しがい》の来《く》るのを待《ま》つて居《を》れ。』と睨《にら》みつけて廊下《らうか》を蹴立《けた》てゝ出《で》た――帳場《ちやうば》に多人数《たにんず》寄合《よりあ》つて、草鞋穿《わらぢばき》の巡査《じゆんさ》が一人《ひとり》、框《かまち》に腰《こし》を掛《か》けて居《ゐ》たが、矢張《やつぱり》此《こ》の事《こと》に就《つ》いてらしい。
 痘痕《あばた》のある柔和《にうわ》な顔《かほ》で、気《き》の毒《どく》さうに私《わたし》を見《み》た。が口《くち》も利《き》かないでフイと門《かど》を、人《ひと》から振《ふり》もぎる身躰《からだ》のやうにづん/\出掛《でか》けた。」
 雲《くも》は白《しろ》く山《やま》は蒼《あを》く、風《かぜ》のやうに、水《みづ》のやうに、颯《さつ》と青《あを》く、颯《さつ》と白《し
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