《しりぞ》けたんです。」
十八
「怪我《けが》、過失《あやまち》、病気《びやうき》なら格別《かくべつ》、……如何《いか》に虚気《うつけ》なればと言《い》つて、」
雪枝《ゆきえ》は老爺《ぢゞい》に此《これ》を語《かた》る時《とき》、濠端《ほりばた》の草《くさ》に胡座《あぐら》した片膝《かたひざ》に、握拳《にぎりこぶし》をぐい、と支《つ》いて腹《はら》に波立《なみた》つまで気兢《きほ》つて言《い》つた。
「女房《にようばう》が紛失《ふんしつ》した、と親類《しんるゐ》知己《ちき》へ電報《でんぱう》は掛《か》けられない。
『何《なに》しろ、最《も》う些《ちつ》と手懸《てがゝ》りの出来《でき》るまで其《それ》は見合《みあ》はせやう。』
『で、ござりまするが、念《ねん》のために、お国許《くにもと》へお知《し》らせに成《な》りましては如何《いかゞ》なもので、』
『可《いゝ》から、死骸《しがい》でも何《なん》でも見着《みつ》かつた時《とき》にせう。』
『其《そ》の、へい……死骸《しがい》が何《ど》うも、』
『何《なん》だ、死骸《しがい》が分《わか》らん。』
私《わたし》は胸《
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